新NISAを使う「もう一つのコツ」

前回の復習

前回と前々回の記事では、制度としてのNISAの変遷を振り返りながら、特に2018年につみたてNISAが登場した経緯に思いを馳せて、手数料が高い不適切な運用商品を選ばないようにと注意を喚起しました。

 

今後に新NISAを利用する個人が意識するべき要点を筆者なりにまとめると以下の3点です。

 

  1. 成長投資枠という言葉に惑わされるな、
  2. つみたて投資枠も成長投資枠も同じ運用商品に投資すべきだ、
  3. 具体的には「全世界株式のインデックスファンド」一本を選ぶといい、

 

ということでした。

 

新NISAの投資対象の選択としてはこれが結論なのですが、新NISAの利用に関しては、資金の動かし方に関してもう一つ押さえておくべきコツがあるので、今回はこの点についてご説明しましょう。

 

新NISAを「大きく使う」

 

新NISAを利用するもう一つの重要なコツは「大きく使うこと」です。資産の運用の大きさは、運用する資産の「額」と運用期間の「長さ」の掛け算で大まかには決まります。新NISAについて、これらの二つをなるべく大きくしましょうということが行動原理になります。

 

さて、ここで確認なのですが、「NISA」は投資の置き場所であって、投資対象そのものではありません。より詳しく言うと「投資資産の有利な置き場所」です。つまり、言葉として、「NISAに投資する」というと少々不正確であり「NISAで投資する」ならば正確な言い方になるのだということがすっきり納得できるようなら大丈夫です。

 

具体的な投資は、何らかの「対象」に対して、何らかの「場所」(具体的には金融口座)で資金を投じることになります。従って、与えられた条件の下で「対象」と「場所」を最適に組み合わせることができると正しい実行方法に辿り着きます。

 

投資家は、先ず自分の投資資産を、なるべく「早く」、可能な限り「大きく」、NISA口座に移すことが最適な行動になります。

 

資金移動の方法

さて、新NISAは、一年間に、つみたて投資枠120万円と成長投資枠240万円の合計360万円までの投資が可能です。そして、この合計が一人1800万円になるまで運用で得た利益に税金が掛からない税制上の優遇を得た投資制度です。この範囲の中で最速の資金移動方法を考えましょう。

 

例えば、既に360万円以上の投資資産を証券会社の特定口座などに持っている人は、先ず1年目に360万円をNISAに移すことがスタートになります。

 

ぎりぎりまで最適化すると考えるとして、「年間1回」が定期的な積立として可能なら、先ず、つみたて投資枠120万円を年の初めに年間一回で埋めてしまうことが合理的です。そして、同時に成長投資枠240万円も同時に投資します。もちろん投資対象は、どちらも同じ全世界株式のインデックスファンドで結構です。

 

一回で、しかも年初にまとめて360万円投資することに抵抗感のある方もいらっしゃるでしょう。こうした方向けも含めて、資金の管理上は毎月定額の積立投資を使うことが便利かも知れません。「毎月30万円×12ヶ月」でもいいでしょうし、あるいはつみたて投資枠と成長投資枠を分けて「毎月10万円の積立投資+240万円の一括投資」で投資を行うくらいの設定が現実的かも知れません。

 

ともかく一年間に360万円、合計で1800万円までの新NISA利用の利用上限にできるだけ近づけることで、新NISA口座にご自分のお金を早く移すことが有効です※1

 

例えば毎月30万円に相当する投資を継続的に続けるほどの資力が継続的には無い方の場合でも、現在すでに投資している資産や現在銀行預金等に預け入れている資産を取り崩して、「なるべく早く」新NISA口座に移すことを心掛けましょう。これまで証券会社の特定口座や、銀行の預金など別の場所にあったご自分の金融資産を、できるだけ早く新NISA口座に移して行きましょう。

 

もちろん、手持ちの資金額や収入の大小などで個人差があります。一年で移動が完了する方もいれば、5年掛かる方、あるいは5年掛けても運用資産全体を新NISAの口座に移しきれない方もいらっしゃるはずです。

 

※1 尚、例えば特定口座内に買い値の数百%以上に及ぶ含み益のある銘柄がある場合、この銘柄は利益を実現せずにそのまま特定口座内で運用を続ける方が得になるようなケースがあり得ます。レアなケースかと思いますが、こうした場合は計算してみて下さい。

お金が足りなくなったら部分解約していい

 

新NISAの投資枠は、税制優遇の対象とする投資期間を無期限としながら、解約したばあいには対象資産の簿価(取得価格)金額に応じて一人1800万円を上限として何度でも「枠」が復活する仕組みなので、NISAに資産を移すこと及びNISA口座から部分換金した資金を引き出すことに関しては相当の自由度があります。

 

ただし、「枠」への再投資は年間360万円までのつみたて投資枠と成長投資枠を通じて行わなければならないので、1年で復元できる解約額は360万円となりますが、この自由度は、中間層くらいまでの富裕度の国民にとっては十分な大きさでしょう。

 

家のリフォームや自動車などの購入、子供の教育資金など、ある程度の金額が必要な事態が発生したら、先ずは手持ちの銀行預金や新NISA以外の証券会社の口座にある資産などの部分解約が先ですが、新NISAの資産も一部解約の対象に含めて考えていいということです。この点は、今回の制度改正で大いに便利になったポイントです。

 

尚、新NISAの口座の中に運用資産を置くことのメリットですが、大まかには「年率1%の利回りに近い有利さがある」と考えておくといいでしょう。新NISA口座の中で投資する対象の期待リターンを年率5%とやや控え目に見積もると、「5%の収益に掛かる税金約2割が免除されるから有利なのは約1%」だとメリットを概算することができます。リスク無しで運用できる金利やリスクプレミアム(リスクを取ることによって得られると期待される追加的な利回り。株式の場合年率5%〜6%と考える研究者・実務家が多い)は時によって変化しますが、「大まかに年率1%」でいいでしょう。

 

この有利さを失うことは惜しいので、なるべく他の金融口座にある資金を先に使う方が得だという判断になります。

 

投資資金が乏しい人は積立投資から

ここまで、運用資産を最速でNISA口座に移動するために年間360万円まで早く投資する方法について述べたが、これは、リスク資産に投資しても良いと考える運用資産を既に360万円以上持っている人向けの話になります。

 

まだ十分な額の運用資産を持っていない、典型的には若いサラリーマンのような方は、毎月3万円、5万円、10万円など、ご自分に可能なペースで積立投資を行うことが、「その時点その時点での最適額への投資」になると考えたらいいでしょう。

 

因みに、成長投資枠でも積立投資は可能です。従って、合計で毎月15万円といった積立投資の設定も可能です。

 

もちろん、積立投資の金額は変更できるはずです(おそらく年単位で変更できることになるでしょう)。前述のようにお金が必要な場合に、新NISAの資産は部分的な解約が出来て、その際に手数料やペナルティなどの損は生じません。新NISAは誰にとっても気楽に利用しやすい制度だと言えます。

 

新NISA利用の2大原則

今回ご説明した新NISAへの資金移動の原則に加えて、前回、前々回の商品選択の考え方を合わせると、新NISAの利用のコツは以下の2原則にまとめることが出来ます。

 

新NISAでは、
【原則1】できるだけ早く新NISA口座に資産を集めて、
【原則2】全世界株式のインデックスファンド1本で運用すればいい、
ということです。

 

投資できる資金の額と、その中でリスク資産に振り向けられる金額には個人差があるかも知れませんが、上記の2原則は、ほぼ誰にでも当てはまるはずです。

 

山崎元 経済評論家・マイベンチマーク代表

経済評論家、株式会社マイベンチマーク代表。1958年北海道生。81年東大経卒。三菱商事に入社、以後、野村投信、住友信託銀行、メリルリンチ証券、UFJ総研など12回の転職を経て楽天証券に入社。資産運用を専門に広く経済分析で活動。著書多数。

家計見直し診断
TOP