2014年に開始したNISA制度の仕組みが、法改正によりさまざまな点で変更されると金融庁から報じられました。現在NISAに加入している方やこれから積立を検討されている方には気になるニュースです(当情報はあくまで2022年10月執筆時のものであり、制度や情報が改定されている可能性がありますのでご注意ください)。
しかし、「新NISAが始まるのは知っているが内容がいまいち分からない」といった方や、岸田政権がなぜ今法改正を行ったのかなど政治的背景を知らない方も多いのではないのでしょうか。
この記事では国の狙いとNISAの関係、新NISAを含めて法改正によって変わったNISA制度について解説していきます。ロールオーバーについても着目していくので、現在運用している方もこれからの方も、ぜひ最後までご覧ください!
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なぜ今、法改正に至った?岸田政権の狙いとは
2022年8月31日、NISA制度に関する法改正が金融庁から発表されました。そもそも、なぜこのタイミングで法改正が起こったのでしょう。それには一時期大きく話題となった「老後資金2,000万円問題」も関わってきます。
この問題は、夫婦ともに無職で老後を送った場合、毎月5.5万円不足するといった金融庁の金融審議会による「計算根拠」に基づいており、年間で65万円の不足となります。つまり現状のまま暮らしていけば、先20〜30年間で2,000万円不足するといった数字によって「老後2,000万円問題」が話題になったのです。そのため、老後に向けた貯蓄が必要といえます。
岸田政権が2022年5月に打ち出した「資産所得倍増計画」も上記の問題が発端です。「資産所得倍増計画」とは、個人の「給料」を増やすものではなく「資産所得」を倍に増やすといった目標のもとに立てられた計画です。
詳細は本年末の発表となっていますが、中学生への金融教育の導入、将来受け取れる年金・保険の見える化など、個人の資産形成に一人でも多くの方が関心を持ち実践していけるよう、取り組んでいく展開となっています。
資産形成には株・不動産・保険などさまざまありますが、国家が資産形成を促すために用意したのが「NISA」と言われる投資方法です。長く政府が掲げてきた目標である「貯蓄から投資へ」の具体策といえます。
しかし2022年6月末のデータでは、NISA口座の開設数は1,109万口座に留まっています。これは、日本の総人口のわずか9%ほど。「もっとNISAを活用して資産所得を増やして貰いたい」といった国の意向から、NISAの法改正や新NISAの誕生に至りました。
投資と聞くと手を出しにくく感じる方もいるかもしれません。しかしNISAは国が国民を思い、作り出した制度です。今回はまだNISAを利用していない方へ、法改正の内容に入る前に「NISA」について解説していきます。
NISA(少額投資非課税制度)って何?
そもそもNISAとは「NISA口座(非課税口座)」内で運用した投資の利益が非課税になる、つまり投資で得た利益をそのままの金額でもらえる制度のことです。
例えば資産運用をして10万の利益が出たとしましょう。通常の課税口座で運用していると、譲渡益や分配金に約20%が課税されるので、10万×20.315%=2万315円の税金が発生し、受取金は約8万円です。しかし、NISA口座で運用すると利益はそのまま、10万円が受け取れます。
投資と聞くと「まとまったお金が必要なのでは」と悩む方も多いですが、NISAは最低100円からスタートできるので、自分のペースで運用可能です。
また「利益が出ないのでは」と心配になる方でも、値段が高い時には少なく買い、安い時にたくさん買う「ドルコスト平均法」で長期積立をすれば、リスクは最低限に抑えられます。
投資先は「投資信託」や「国内外株式」などから選ぶことができます。とりあえず人気商品を買っておくと安心です。不安な方はYouTubeやNISA公式サイトを含め、さまざまな媒体を参考にするとよいでしょう。
お金を「貯める」のではなく「動かして働かせる」のが投資の仕組みです。まだ始めていない方は下記URLを参考にぜひ始めてみましょう。
参考:SBI証券HP
NISA制度の種類(2022年現在)
資産形成に重要なNISAの制度には3つの種類があります。それぞれ特徴があり、今回の法改正とも関わりが深いので一つずつ解説していきます。
短期決戦!一般NISAとは
一般NISAは運用期間5年間で年間120万円まで積み立てが可能な、非課税投資枠が最大600万円のNISA口座です。一般NISAをフル活用するのであれば、月10万円まで投資するとよいでしょう。
運用期間の5年を過ぎた場合は、もう一度NISA口座に加入可能な「ロールオーバー(非課税期間終了時に持っている金融商品を新しい非課税投資枠に移す制度)」を選択することによって、もう一度NISA口座に加入し直すことが可能です(現在、新NISAの登場で2023年までが有効期限ですので注意が必要です)。ロールオーバーについては後ほど詳しく解説します。
また、5年後に金融商品を売却した場合と、保有期間中に配当金を受け取った場合については、それぞれ以下の図のように、利益や配当金を非課税で受け取れます。
金融商品は株式・投資信託・ETF(日経平均株価などの指数に連動する投資信託の一種)・REIT(不動産を投資対象とした投資信託)と幅広いです。投資経験があり、かつ年間120万円の投資ができるほど金銭的に余裕があり、短期的な利益を得たい方は「一般NISA」を選ぶとよいでしょう。なお、一般NISAは2024年には新NISAに変わります。次の章で詳しく解説しますので、しっかり読んでポイントを押さえておきましょう。
長期的に少額で!つみたてNISAとは
つみたてNISAは20年間という長期にわたって、少額から運用できるNISA口座です。年間の投資金額は最大40万円、毎月約3.3万円です。
つみたてNISAは一般NISAと比べて期間が長いのが特徴です。法改正に伴い、現在投資可能な期間は2018年〜2042年(このうち最大20年間)となります。20年経過後は一般NISAと異なり、ロールオーバーできずに一般口座に払い出されます。
つみたてNISAの開設が遅く、20年に至る前に2042年を迎えてしまった金融商品はそのままつみたてNISA口座に20年分非課税で保有できます。
つみたてNISAの金融商品は金融庁が定めた条件をクリアした「投資信託」「ETF」のみです。一般NISAと比較しても選択可能な商品数が少ないため、投資初心者の方でも気軽に始められます。また少額から長期に資産運用できるのも特徴です。
NISAの開設口座数で一番多いのは「つみたてNISA」です。投資の知識がなく迷ってしまう方は「つみたてNISA」を検討しましょう。つみたてNISAについては、以下の記事でも解説しています。
子どものために!ジュニアNISAとは
ジュニアNISAは18歳以下の子どもがいる両親や祖父母が開設できる「子どもの将来の資産を形成する目的」を持ったNISA口座です。
期間は最長5年間、投資金額は年間80万円、毎月約6.6万円です。期間終了後は子どもが18歳になるまで非課税のまま保持できます。そして18歳になると投資金と利益を引き出せます(法改正により廃止が決定したので注意が必要です)。
ジュニアNISAで取り扱う金融商品は以下の通りです。
- 株式投資信託
- 国内外の上場株式
- 国内外ETF
- 国内外REITなど
投資対象の保持年数は最長18年であるものの、残念ながら2023年での廃止が決定しており、2024年以降は新規購入は不可能です。よって1年分のみの購入となり、購入機会の分散ができないため、その分リスクの少ない商品を選択するとよいでしょう。
法改正で生まれ変わる新NISAとは
現在のNISAについて解説しましたが、法改正により2024年から「新NISA」が開設されると発表されました!しかし複雑な制度に変更され、いまいち理解しきれていない方も多いでしょう。ここでは新NISAについて解説していきます。
2023年に「一般NISA」が終了し、代わりとなるのが「新NISA」です。運用期間は2024年〜2028年の最長5年間であり、年間最大122万、毎月約10.2万円(10.1666万円)の投資額です。
122万円の投資枠は1階部分の20万、2階部分の102万に分かれており、投資する際は1階部分を満額投資しないと2階部分の投資ができないようになっています。下図を参考にしてください。
引用:新NISAとは?いつから始まる?知っておきたい変更点りそな銀行 資産運用|みんなが知りたい資産運用 りそなグループ
1階部分と2階部分で異なる部分は金額と金融商品です。1階部分は前項で説明した「つみたてNISA」と金融商品が同じで、投資信託とETFに投資できます。2階部分は「一般NISA」と金融商品が同じで、上場株式やREITを含め幅広く商品を選べます。
「つみたてNISA」と「一般NISA」の複合型が「新NISA」です。より多くの方が投資を始めるきっかけを作るための政策と感じられます。
2024年からは複合型になり手を出しやすくなった「新NISA」と長期型の「つみたてNISA」から選択しましょう。
法改正による4つのポイント
一般NISAから新NISAへの切り替え以外にも、法改正による発表はいくつかありました。ここからは今後変わっていく4点について解説していきます。
法改正のポイント①期限の延長
2023年に「一般NISA」は廃止となりますが、2024年「新NISA」として継続されるため実質5年期限延長となり、2028年まで投資できます。
また「つみたてNISA」についても当初の投資期間が2037年から、5年の延長により2042年までとなりました。まだ始めてない方にとっても、最近始めた方にとっても嬉しい改正といえるでしょう。
法改正のポイント②投資可能額の増加
「一般NISA」は「新NISA」に変わります。今までの積立金額は年非課税投資金額は120万でしたが、法改正により122万となりました。
年間投資額が2万増えると、年2万×5年=10万円の非課税投資額が増えます。例えば年利回り5%で2万5,000円の利益が出たとすると、課税枠での投資だと税金で約5,800円引かれてしまいますが、非課税枠だと2万5,000円そのまま手に入るためお得です。
ただ前項で解説したように「新NISA」は1階部分の20万を満額投資しないと2階部分の102万に投資できないので注意しましょう。
法改正のポイント③恒久化の可能性?
NISAは、元々イギリスの「ISA」と言われる恒久化された少額投資非課税制度を参考に作られました。イギリスでは人口の40%の方が「ISA」で資産形成しています。日本もより多くの国民が資産形成を行うよう、法改正を行いました。
今回の法改正では、延長期限終了後についての発表がされていません。更にNISAの期限が延長されたので、日本でもNISAが恒久化する可能性があると考えられます。金融庁が主体となって恒久化を押し進めている段階です。
また、税制が変わる可能性もあります。今までは、株式の売却益や配当金に対し、20.315%の税金が課せられていました。しかし、非課税のNISA利用者が増えることで、国としては税収入が減る可能性が出てきます(2022年現在)。そのため税制を変更してバランスを取るようになる可能性は十分にあり得るでしょう。
もうすでに運用している方、これからの方にとってもNISAの恒久化はとても有益です。税制も含め、今後の金融庁の発表、国の動きに期待できます。
法改正のポイント④ジュニアNISAの廃止
ジュニアNISAは2023年をもって廃止されます。需要が少なかったのが原因かと思われます。しかし、現在持っているジュニアNISA金融商品は、子どもが18歳になるまで非課税運用で持ち続けられます。
2022年から始めたとしても1年分の80万を長く運用できるので、リスクの少ない金融商品に投資し長く持ち続けるだけでお得です。
運用者は必読!ロールオーバーの変更点
もうすでにNISAを始めている方は「今持っている投資金は期限が切れたらどうなるの?」と心配になりますよね。そのために「ロールオーバー」と呼ばれる非課税期間終了時に持っている金融商品を新しい非課税投資枠に移す制度があります。
現在NISAを運用している方は満期を迎えた時に「売却する」か「課税口座に移す」か「ロールオーバーするか」の選択に迫られます。
ここでは新NISAが増えることによって変わる各NISAのロールオーバーについて解説します。
一般NISAから新NISAへのロールオーバー
「新NISAは1階部分から投資しなければ2階部分に投資ができない」と先述しましたが、すでに投資をされている方は2階部分の投資枠から使用できる特例があり、金融商品を幅広く選べるメリットがあります。
一般NISAは2024年に自動的に新NISAへ移行されます。下の図は一般NISAに110万円投資していた場合のロールオーバーです。新NISAは122万円投資可能なので、110万円に加えて新しく1階部分に12万円の投資ができます。
引用:新NISAで変わる「ロールオーバー」とは?いつまで非課税になる?|みんなが知りたい資産運用 りそなグループ
ロールオーバーをする際は適切な手続きが必要となるので、事前に自分の証券口座での手続き方法を確認しておきましょう。
新NISAからつみたてNISAへのロールオーバー
次に、新NISAつみたてNISAへロールオーバーする例を考えてみましょう。
新NISA終了予定の2028年以降、1階部分をつみたてNISAにロールオーバーできます。下の図は新NISA1階部分の投資していた20万円が最終的に40万円になった場合のつみたてNISAへのロールオーバーです。
引用:新NISAで変わる「ロールオーバー」とは?いつまで非課税になる?|みんなが知りたい資産運用 りそなグループ
1階部分は40万円に値上がりしていますが、ロールオーバーできるのは当初購入価格の20万円のみです(ロールオーバーできなかった20万円は課税口座に移すか、売却するかの選択を行います)。つみたてNISAは年40万円の投資ができるため、残り枠の20万は新しい金融商品を購入して積み立てられます。
先ほど紹介したように「つみたてNISA」は2042年まで投資できるため、新NISA終了後から14年間運用できるので、出来るだけ活用しましょう。
また、つみたてNISAから新NISAへのロールオーバーは原則できません。新NISAに切り替えたい場合は変更手続きが必要となるので注意しましょう。
ジュニアNISAの継続運用
ジュニアNISAは2023年に廃止となりますが、終了後も子どもが18歳までは非課税枠でそのまま継続運用できます。また、子どもが18歳になったのちは新NISAかつみたてNISAに移行できます。
これは逆にチャンスです。ジュニアNISAは一般NISA・つみたてNISAどちらとも併用可能です。残り短い期間ですが、条件の合う方はぜひ活用しましょう。
NISA法改正のポイントを押さえ今後の動きに注目
ここまで岸田政権の動き、NISAとは何か、現在のNISAと法改正後に加わる新NISA、またそのほかの変更点と各NISAのロールオーバーについて解説しました。
NISAは国が用意した個人資産を増やすための仕組みです。法改正をしても非課税分でお得になるのには変わりありません!
さっそく口座開設をしてNISAを始めていきましょう。また、現在NISAを運用している方はロールオーバーなど適切な選択を行いつつ、恒久化するのか今後の金融庁の発表に注目していきましょう!