インボイス制度とは?フリーランス必見の新制度をわかりやすく解説

2023年から始まるインボイス制度。制度が導入されると、私たちの仕事にはどのような影響があるのでしょうか。

 

今回は、インボイス制度について詳しく解説します。制度の詳細な内容や私たちに与える影響、特に影響が大きいとされる個人事業主・フリーランスが取るべき対応について紹介します。今後の取引の仕方や働き方に関わる内容なので、ぜひ最後まで読んで制度導入に備えましょう。

 

インボイス制度とは何か?

 

美月さんは、フリーランス3年目で年収500万円のハンドメイドクリエイター。フェルトやレザーを仕入れて、小物雑貨を作って販売しています。

 

ニュースでインボイス制度が始まることを知った美月さんは、知り合いのFPである小林さんを頼ることにしました。小林さんは、美月さんにインボイス制度の概要・インボイスの定義から説明を始めてくれました。

 

インボイス制度の概要

小林
美月さんのお店は「インボイス制度」についてはどうする予定ですか?
美月
実は……まだ何も決まってないというか、何もわかっていなくて…小林さんの力を借りたいなと思って伺ったんです。
小林
そうでしたか!インボイス制度は難しい制度ですが、しっかりと理解すれば大丈夫です。一緒に勉強しましょう!
美月
よろしくお願いします!
小林
インボイス制度とは、インボイスを発行・保存して仕入税額控除を受けるための制度です。2023年10月から開始される制度で、正式名称を「適格請求書等保存方式」といいます。ちなみに、仕入税額控除は、売上の消費税額から仕入の消費税額を差し引くことです。
美月
消費税に関連する制度なんですね。
小林
そうです。2019年に消費税の引き上げと軽減税率の導入が始まり、10%と8%の2つの税率が存在することになりました。2つの税率を同時に適用しているため、どの商品にどちらの税率が適用されているかが不明瞭になることが増えました。そのため、インボイス制度を導入して売る人・買う人が共に商品の正しい税率・税額を把握できるようにしたのです。
美月
確かに、10%と8%の消費税はややこしいですもんね。税率がはっきりわかるなら買い手としては助かるかも……
小林
ただし、買い手も売り手もさまざまな手続きが必要になりそうです。対応すべきタスクの詳細は、後ほどお話します。

 

「インボイス」とは?今までの請求書とどう違う?

小林
インボイス制度が始まると、これまで使用していた請求書は使えなくなります。インボイスは「適格請求書」といって、発行に所定の要件を満たす必要があるためです。
美月
これまでとは違う請求書を作らなければならないんですね。適格請求書って、具体的にどんなものなのでしょうか?
小林
これまでの請求書の項目と、新たに必要な項目を見比べてみましょう。
現行の請求書で記載すべき項目
  • 発行者名
  • 取引年月日
  • 取引の内訳
  • 金額
  • 宛名
  • 軽減税率対象商品の旨
  • 10%税対象、8%税対象の取引額内訳
インボイスに追加で記載すべき項目
  • 登録番号(課税事業者のみ登録可)
  • 適用税率
  • 税率ごとに区分した消費税額等

 

美月
今までよりも記載する項目が増えるんですね……
小林
そうなんです。具体的な説明は後ほどしますが、これらの事項は請求書に必ず記載しなければならないため、少し手間がかかります。加えて、美月さんのような個人事業主の方は注意すべき事項が多いので、しっかりと制度内容を理解しておきましょう。
美月
わかりました、がんばって覚えていきます!
小林
それから、請求書の保存も忘れず行いましょう。こちらはこれまで同様紛失しないようにすれば問題ありません。また、以下のケースは請求書をもらうのが困難なので、帳簿を保存しておくだけで済みますよ。
  • 3万円未満の自販機利用
  • 3万円未満の乗車券
  • 郵便サービスの利用(ポストへの投函など)
  • 回収された入場券
  • 従業員に支給する日当・宿泊費などの課税仕入
  • インボイス発行者以外からの再生資源等の購入
  • インボイス発行者以外から古物商が購入した棚卸資産

 

美月
そうなんですね。これは覚えておきたいと思います。

 

インボイス制度はどんな変化をもたらす?

 

小林
インボイス制度が始まると、大きく変化する点が3つあります。今後の美月さんの取引に関わる事項なので、しっかり覚えておきましょうね。
美月
はい。よろしくお願いします。

 

請求書の記載方法が変わる

小林
インボイス制度の導入により、請求書の記載方法が変わります。
これまで仕入税額控除を受けるには、請求書を証拠書類として保存しておけば問題ありませんでした。しかし、2019年に消費税率が改正されて税率10%の商品と税率8%の商品が混在するようになり、請求書にはそれらを分けて記載する必要が出てきました。美月さんもこのような請求書を作ったこと、あるんじゃないでしょうか?

 

美月
そうですね。私もいつもこのように請求書を作っています。
小林
今回のインボイス制度では、これに記載事項が増える形となります。
美月
先ほど紹介してもらった「登録番号」「適用税率」「消費税額」の3点を記載するんですね?
小林
そうです。こういった形で3点の項目を記載します。

 

美月
①が登録番号、②が適用税率、③が消費税率ですか。今までよりも細かい記載が求められるんですね。

 

仕入税額控除を受けるにはインボイスが必要に

小林
仕入税額控除の適用も、インボイス制度の影響を受けます。2023年10月以降は、インボイスの発行と保存が仕入税額控除の必須要件となるんです。

Ex.美月さんが1万円の商品を仕入れて、2万円で販売した場合

 

仕入税額控除が適用される場合 美月さんの売上に含まれる消費税から、美月さんが仕入れで支払った消費税を控除できる。

 

売上の消費税−仕入れ時の消費税=納税額なので、
2,000−1,000=1,000円を納税する。

仕入税額控除が適用されない場合 美月さんの売上に含まれる消費税全額が納税対象となる。

 

売上の消費税=納税額なので、2,000円を納税する。

 

美月
そうなんですね、税控除はできる限り適用したいから、これは痛手ですね……
小林
売り手・買い手のどちらにも適用されるため、注意が必要です。買い手であれば、インボイスを発行・保存していない事業所から仕入れをしてしまうと税控除が受けられません。また、発行してもらったインボイスは確実な保存が必要です。売り手であれば、買い手からインボイスの発行を求められた際は、必ず対応しなければなりません。適切に対応しないと、取引の存続に関わります。
美月
売り手も買い手もちゃんと対応しないと損する可能性があるんだ……
小林
はい。私の会社もインボイス制度の対応に追われている最中です。お互いに気をつけないといけませんね。

 

消費税の課税事業者のみインボイスの発行が可能

小林
インボイスの発行は、誰もができるわけではないんです。
美月
……どういうことでしょう?
小林
インボイスを発行するには「適格請求書発行事業者」になる必要がありますが、登録は消費税の課税事業者のみ可能なんです。
美月
え!そうなんですね……!
小林
これまでは税抜での売上金額が1,000万円以上だと、消費税の課税対象である「課税事業者」に該当していました。反対に、1,000万円以下だと「免税事業者」に該当し、消費税を納める必要はありませんでした。しかし、インボイス制度が導入されると免税事業者は原則インボイスの発行ができないため、消費税の仕入税額控除を受けられなくなってしまうんです。
美月
うわぁ、経営が苦しくなりそう……
小林
免税事業者にとっては、頭を悩ませる制度になりそうです。

 

【3パターンを紹介】インボイス制度、どう対応すればよい?

 

美月
私たちがインボイス制度に対応するには、どうしたらよいのでしょうか?
小林
どの事業所も対応すべきタスクが複数あると予想されています。一つひとつ適切に処理していきましょう。課税事業者・免税事業者・フリーランスや個人事業主の3パターンに分けて、対応策を紹介しますね。

 

課税事業者はどう対応する?

小林
課税事業者は、以下の点に対応しておきましょう。
  • 適格請求書発行事業者の登録申請
  • 取引先への登録有無の確認
  • 経理事務の見直し
  • インボイス対応設備の導入

 

美月
タスクが多いんですね〜。
小林
そうですね。自社のインボイス発行登録に加え、取引先が登録するかどうか確認しておくと今後の取引もスムーズになるでしょう。免税事業者の取引先がある場合は、仕入税額控除の適用に関わるため聞いておくとよいですね。
小林
それから、免税事業者との取引がある場合は税額計算が変わるため経理事務が複雑になる可能性もあります。経理担当と綿密なコミュニケーションをとりながら、対応を考えていく必要があるでしょうね。
美月
確かに、税額の計算はかなり大変になりそうですね。
小林
そうですよね。場合によってはレジや請求書システムなどを新たに導入することもあるでしょう。コストも時間もかかるため、早めに準備しておくことをおすすめします。

 

免税事業者はどう対応する?

小林
免税事業者は原則インボイス登録ができませんが、課税事業者になることでインボイス登録が可能になります。2023年10月1日時点で対応したい場合は、同年の3月31日までに「消費税課税事業者選択届出書」を提出しましょう。ただし、提出できない事情がある場合は9月30日までに事情を書いた申請書を提出すれば問題ありません。
美月
課税事業者になると、消費税を納める必要があるんですよね?
小林
そうです。支出が増えるため事業を安定させておく必要がありますね。
美月
今まで以上にがんばらないと……

 

フリーランス・個人事業主はどう対応する?

小林
美月さんの一番の不安は、やはり課税事業者になる点ですね?
美月
そうです……今まで売上が1,000万円を超えたことはなかったので消費税を納める必要はなかったんですが、これからは納めなきゃいけなくなりますからね……
小林
ただ、免税事業者のまま事業を続けて、取引先との関係性を壊したくない思いもありますよね。
美月
はい……課税事業者になっても、免税事業者のままでも、フリーランスにとっては大きな不利益になるので困ってしまいます。
小林
インボイス制度は多くの企業に影響を与えることが予想されますが、中でもフリーランス・個人事業主の方は影響が大きそうです。ただし、焦ってすぐに登録しないのも一つの手だと思いますよ。
美月
何か対策があるんですか?
小林
以下の2つがありますよ。
  • 仕入税額控除の経過措置を使う
  • 簡易課税制度を使う

 

小林
仕入税額控除に関しては、6年間の経過措置が設けられるんです。
美月
これはありがたいですね!
小林
インボイス登録していない事業者から仕入れをした場合、2023年10月から3年間は80%の控除が、2026年10月から3年間は50%の控除ができます。請求書を保存し帳簿に経過措置の適用を受ける旨を記載しておけば、控除を受けられますよ。
美月
経過措置を使えば、インボイスの登録は様子を見て進められそうですね!それに、一定の割合が控除されるなら、取引先もそこまで困らないかもしれないし……!
小林
そうですね。仕入先・販売先の両方に相談してみるとよいでしょう。
ほかにも、売上高が5,000万円以下なら簡易課税制度を使えます。請求書や帳簿の管理が煩雑にならないうえ、節税にもつながる場合があります。
美月
別の制度や措置を使う選択肢も存在するんですね!安心しました。

 

まとめ

小林
インボイス制度はまだ導入前なので、不安に思う人も多いようです。制度自体も複雑なため、今後課題が出てくることもあるでしょう。適切な対応をとるべく、準備をしておくとよいですね。
美月
今まで以上に大変な作業が増えるかもしれないので、注意して備えたいと思います。
小林
経過措置などもあるため、自分の事業にとって最良の対応ができるよう、がんばりましょう。
美月
はい。ありがとうございました!

 

事業所の規模を問わず影響を及ぼす可能性のあるインボイス制度。美月さんのようにしっかりと制度について勉強し、対策を練っておくとよいでしょう。

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